2011年9月、NASAの人工衛星が地球に落下して話題になったが、
今週末にはドイツの人工衛星「ROSAT」も大気圏に再突入するという。
破片が人にぶつかる確率は前回より高いとされている。
ROSATの開発と建造を率いたドイツ航空宇宙センターによると、
破片が人を傷つける確率は「2000分の1」。
NASAの上層大気観測衛星(UARS)の場合は「3200分の1」だった。
欧州宇宙機関(ESA)でスペースデブリ(宇宙ゴミ)部門を率いる
ハイナー・クリンクラッド(Heiner Klinkrad)氏は、
「現時点で、ROSATはグリニッジ標準時の23日早朝(日本時間23日夕方)、
制御不能の状態で大気圏再突入すると予測されている」と話す。
「ただし、実際の時刻は前後最大24時間ずれる可能性がある」。
誤差が生じるのは、太陽の放射エネルギーの変化が100%の精度で予測できないためだ。
太陽放射が増大すると、大気の温度が上昇し、膨張する。
人工衛星にかかる抗力も増し、予測よりも早く落下することになる。
◆宇宙ゴミに触らないこと
残念なことに、クリンクラッド氏をはじめ、
誰もROSATの落下地点を明言することはできない。
ドイツ航空宇宙センターのローランド・グラブ(Roland Grave)氏は、
「可能性として、落下地点は北緯53度から南緯53度の間、
つまり地球の大陸のほとんどが対象地域となる」と述べた。
危険が指摘されているのは、ROSATに搭載されている1.5トンの反射ミラーだ。
この部品は、超高温の大気圏再突入に耐え、地上まで到達すると考えられている。
衝突地点には大きなくぼみができるだろう。
先月落下したNASAのUARSの場合、想定された最大の破片は、約150キロの骨組み部品だった。
結局、UARSの破片は太平洋の沖合に沈み、魚は驚いたかもしれないが、特に被害は出なかった。
ROSATはUARSよりも危険だが、それでも人に当たることはまずないという。
地球の大部分は海洋か、人がほとんど住んでいない地域である。
ESAのクリンクラッド氏は、「私たちは日常生活の中でさまざまなリスクを受け入れている。
それに比べれば、人工衛星の再突入のリスクは微々たるものだ」と語る。
グラブ氏は、「近所で破片を見つけても、非常に高温なので決して触らないでほしい」と話す。
なお、地球のどこに落ちても落下物の所有権はドイツ政府に帰属するという。
◆ROSATの一生
ROSAT(ROentgen SATellite:レントゲン衛星)は1990年、
デルタIIロケットによって打ち上げられた。
超新星の後に残される高密度の中心核「中性子星」などの
天体が放出するX線観測を目的としていた。
ミッションは当初18カ月の予定だったが、最終的に8年間運用が続けられた。
1999年、最後まで稼働していた計測機器が偶発的に太陽の方向を向いてしまい、
センサーが損傷。運用停止が決定された。
ROSATが設計された1980年代、衛星の“最期”については何も計画されていなかった。
「宇宙は広いし、再突入で人にぶつかることはないだろう」と思われていたのだ。
そのため、ROSATには、慎重に演出された“死”を迎えるための推進システムが搭載されていない。
この20年間ROSATプログラムに従事してきたイギリス、
レスター大学の物理学者ジョン・パイ(John Pye)氏は、次のように話す。
「望遠鏡の反射ミラーはおそらく完全な形で落下してくるだろう。
あれだけの大きさだし、使われているガラスも特別製だ。
宇宙空間で鏡の温度が変化するとX線をゆがませてしまうので、
非常に耐熱性の高い素材が採用されている」。