首都直下地震の一つ、東京湾北部地震の震源がこれまでの想定よりも浅くなり、
激しい揺れの地域が格段に広がることが、東大地震研究所を中心とした文部科学省の
研究チームの調査で分かりました。
それによると、震度6強が想定される地域が従来の2倍近くに広がるとともに、
これまでまず起きないとされてきた震度7の激震が、東京都東部と神奈川県北東部の
東京湾岸地域で予想される事態となりました。
これを踏まえて6年前に発表した被害想定(死者6400人)を東京都が見直し、
4月中旬に明らかにしたのがこの犠牲者1.5倍の被害想定なのです。
震源が浅くなったといっても、火山のマグマのように震源がせり上がってきた
わけではありません。地震の観測体制が充実した結果、プレートと呼ばれる岩板が
複数せめぎ合う「地震の巣」が足下に広がる首都圏の地中の状況がこれまでよりもはっきりと
把握されるようになったのです。
そして、これまで考えられていたよりも、震源が浅い位置になるだろうということが
突き止められたのでした。
突き止めたのは、「地震波トモグラフィー法」と呼ばれる最新の観測法でした。
なにやら、難しげな名前ですが、人の体の内部の様子を輪切りにして描き出す
「CTスキャン」のようなものと言ったらいいでしょうか。
いくつもの地震計を地中に埋め込んで、地中における地震波の伝わり具合を精密に
調べることにより、地下の硬い岩石と軟らかい岩石の分布がどのようになっているのかを
把握し、震源となる場所などを突き止めていく。
いわば、”大地のCTスキャン”なのです。そして、その精度がここにきて格段に向上したのです。
画素数が多いデジタルカメラほど、撮影した画像が鮮明ですが、この大地のCTスキャンも
同じで、観測点が多いほどより鮮明に地下の様子を描き出すことが出来ます。
ただ、オフィスビルが立ち並び、住宅が密集する首都圏では、
観測場所を確保するのが難しいのです。
学校の校庭などに設置された地震計の地上部分 用地確保のために、
東大地震研究所が目を付けたのが小学校や中学校の校庭でした。
子どもたちの通学可能距離は、歩いて2キロ・メートル、自転車を使っても
5キロ・メートル程度でしょうか。
学校の校庭に地震計を埋設していけば、過密都市・東京を中心とした首都圏であっても、
2~5キロ・メートルの間隔で観測網を整備していくことが出来る。
この校庭活用作戦のおかげで、地震計は計296か所に設置されることが可能となり、
校庭などに埋め込まれた地震計が、大地の鼓動に耳をすましてとらえた地震のデータは
ただちに東大地震研究所に送られ、少しずつ地下構造を明らかにしていったのだそうです。
校庭などに設置され、大地の動きに耳をすまし、24時間休みなくデータを発信し続ける
地震計の存在は、子どもたちの知的好奇心も大いに刺激するようです。
東大地震研究所では、大地の不思議を学ぶきっかけにしてもらおうと、
この観測システムの仕組みと役割などを子どもたちに伝えるとともに、
地震への知識と関心を高めるモデル授業に、東京都板橋区内の小学校で取り組んできたそうです。
地下構造を明らかにすることで、深刻な被害の状況を把握するだけではなく、
地震に対する知識と心構えを身につけさせる。
技術の進歩によって減災にもつながる試みを、さらに広げていってもらいたいものです。